ここに、ワケあって10年ほど捨てられなかったTシャツがある。
インドのコルカタへ訪問した際に、一目見るや、衝動的に購入したものだ。
1:コンジキの生地。
2:有難き仏様がプリントされたデザイン。
魅力はそれだけではない。
なんとこのTシャツ、一度洗うと洗濯機のなかで色が水に溶け出して、ほかの衣類をきれいに染め上げてしまうのである。
購入当初、僕はそのことをつゆ知らず、現地コルカタでお世話になっていた民宿の洗濯に出してしまった。
翌朝、庭にかけられた物干し用ロープにふと目をやると、本来白いはずのオーナーのシャツが黄色く変色してぶら下がっていた。
間もなく僕は民宿のオーナーに、けっこう怒られた。
インドで購入した珍妙なるお土産Tシャツのその後
そんな具合なので、この伝説のインドお土産Tシャツはこれまで一度も洗っていないし、もっと言えば一度も着用していない。
コルカタから日本へ帰国してより、我が家のタンスに深く眠ったまま、この日を迎えたという次第である。
実はもう一着、仏Tシャツを購入していた。
それは10年前の帰国して間もなく、近所の友人にプレゼントした。
Tシャツをプレゼントするという経験は、実はあるようであまりないだろう。
親か恋人か、そういった関係からもらうことはあるだろうが、人様が着用するものをプレゼントするというのは、なにぶん十分な下調べが必要である。
友人は最初、その浮世離れしたデザインに困惑している様子であったが、取り扱いの説明を聞くたるや、さらに困惑した面持ちへと変容した。
彼は部屋を片付けるのが非常に苦手であった。
僕から見れば「これいらんだろう」と思うものがひしめくほどに。
なので、きっとこのかけがえのない友人は、僕から受け取った『現在日本に2着しか渡来してないコンジキのホトケTシャツ』を大切にしてくれるだろうと安心していた。
1年ほど経過したところで、Tシャツの安否を聞いてみたところ、友人は「えっ!?捨てたよ?」と驚きをまじえて返答した。
さも当然といわんばかりの顔に、僕はそれ以上問いたださなかった。
僕から見れば「いらないもの」で部屋がいっぱいのあの彼ですらポイしてしまうとは。
この教訓を忘れてはならない。
インドのコルカタへ訪問の際には、是非ともTシャツを購入しようと検討されている諸君!
日常会話の練習など、どうでもいい。
真っ先に以下のフレーズを、英語と現地語で脳内にたたき込んでおくことを強くおすすめする。
「この衣服の塗料は水にとけるシロモノかい?」